妖怪大ピンチ。
「あれだってよ、“枕返し”の奴、最近じゃ、低反発とかいう枕に変えられてすっかり返しづらくなったってよ」
「“鳴屋(やなり)”たちもだぜ。家をギシギシ鳴らしすぎてリフォームされちまったらしいもん」
「あれだよなぁ、やりにくくなったよなぁ、オレ達」
妖怪達は苦悩していた。最近、自分たちの“仕事”がどんどんやりにくくなっているのである。驚かすにはうってつけだった暗い夜道にはもれなく街灯が立ち、ようやく見つけたおなごも変質者に先を越される有様。このままでは存在意義がなくなってしまう。今年も夏がやってきた。一昔前なら、妖怪達は今頃、来るべき夏に向けて準備に余念がなかった。夏といえば、妖怪だったからである。しかし、近頃はてんでダメである。世の中から『不可思議』なものや『不気味』なものがどんどんなくなってきたせいで、人間達から全く怖がってもらえなくなってしまった。
人間を驚かし、人間を怖がらせることが存在意義である妖怪にとって、昨今の状況はまさに死活問題であった。
そこで妖怪たちは情報収集を開始したのである。
◇──◇
「ここに飛び込めってか?」
“雷神の息子”は顔をしかめながら地中の電線を見つめていた。
「なんかな、最近では“いんたぁねっと”とかいうのが人間どもの情報を知るにはうってつけらしいんだよ、で、お前、電気とかそういうの大丈夫だろ? だからこん中入って近頃の人間が何を怖がるか調べてきて欲しいんだよ」
雷神の息子は大きく溜息をついた。
「人間の作る電気はなんかチクチクするんだよなぁ」
「そういわずに、頼むよ」
「わかったよ、んじゃ、行ってくる」
そういうと雷神の息子は電気ケーブルに吸い込まれていった。
「イタタタタタタタタタタタ! なにこれ、痛っ! っていうか速っ! 電気すげぇ速いんですけど!」
『大丈夫か?』
外から妖怪立ちの心配そうな声が伝心で伝わってくる。
「なんか、もうめっちゃイヤやねんけど」
『なんで関西弁なんだよ、とりあえず電気に、人間が怖がるものがわかるところに連れてってもらえ。なんか“ほぉむぺぃじ”とかいうのがあるらしいから』
雷神の息子は体中にチクチクしたモノを感じながらも、高速の電気に語りかけた。
「おい、ワシを人間が怖がるもんがわかる“ほぉむぺぃじ”に連れて行け」
すると電気の流れの速度が一気に上がった。
「お、おいおい、おいおいおいおい! なんか言えよ、なんだよ近頃の電気は愛想がないなぁ!いたいいたい、いたいっちゅうの!」
雷神の息子はそのまま一気に流されていく。
そして気付くと真っ黒な部屋にいた。
「これが“ほぉむぺぃじ”かぁ」
『どうだ、なんか情報あるか?』
外の妖怪達も気になって仕方がないらしい。
「ちょっと待てよ……あ、“創作怖い話”ってのがあるぞ、これでいいのかな」
『おぉ! まさにそれだよ! 人間どもが自分が『怖い』と感じることを物語にしてるわけだろ? それを参考にこれからの“仕事”を検討していこう、雷神の息子、読んでくれ』
そして雷神の息子は、“創作怖い話”、全30話を外の妖怪達に読み聞かせた。
外の妖怪達は無言で雷神の息子の声に耳を傾けた。
物語が進むにつれ、雷神の息子の声が聞き取りづらくなってきた。
声が、震えているのである。
外の妖怪達も一様に震えていた。
30話の物語が終わった頃には誰もが黙り込んでいた。
やがて、ある妖怪が口を開く。
「めっちゃこわいやん」
それに続く様々な声。
「オレ、そんなんムリ、絶対ムリ」
「なんなの、今の人間はそんな怖い経験しないと怖がらないの? 私、無理よ……」
「お、おい、“壺入道”が気絶してるぜ」
「“涙御前”なんて嘔吐してるよ」
そして最後に誰かが呟いた。
「人間……こえぇ……」
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「“鳴屋(やなり)”たちもだぜ。家をギシギシ鳴らしすぎてリフォームされちまったらしいもん」
「あれだよなぁ、やりにくくなったよなぁ、オレ達」
妖怪達は苦悩していた。最近、自分たちの“仕事”がどんどんやりにくくなっているのである。驚かすにはうってつけだった暗い夜道にはもれなく街灯が立ち、ようやく見つけたおなごも変質者に先を越される有様。このままでは存在意義がなくなってしまう。今年も夏がやってきた。一昔前なら、妖怪達は今頃、来るべき夏に向けて準備に余念がなかった。夏といえば、妖怪だったからである。しかし、近頃はてんでダメである。世の中から『不可思議』なものや『不気味』なものがどんどんなくなってきたせいで、人間達から全く怖がってもらえなくなってしまった。
人間を驚かし、人間を怖がらせることが存在意義である妖怪にとって、昨今の状況はまさに死活問題であった。
そこで妖怪たちは情報収集を開始したのである。
◇──◇
「ここに飛び込めってか?」
“雷神の息子”は顔をしかめながら地中の電線を見つめていた。
「なんかな、最近では“いんたぁねっと”とかいうのが人間どもの情報を知るにはうってつけらしいんだよ、で、お前、電気とかそういうの大丈夫だろ? だからこん中入って近頃の人間が何を怖がるか調べてきて欲しいんだよ」
雷神の息子は大きく溜息をついた。
「人間の作る電気はなんかチクチクするんだよなぁ」
「そういわずに、頼むよ」
「わかったよ、んじゃ、行ってくる」
そういうと雷神の息子は電気ケーブルに吸い込まれていった。
「イタタタタタタタタタタタ! なにこれ、痛っ! っていうか速っ! 電気すげぇ速いんですけど!」
『大丈夫か?』
外から妖怪立ちの心配そうな声が伝心で伝わってくる。
「なんか、もうめっちゃイヤやねんけど」
『なんで関西弁なんだよ、とりあえず電気に、人間が怖がるものがわかるところに連れてってもらえ。なんか“ほぉむぺぃじ”とかいうのがあるらしいから』
雷神の息子は体中にチクチクしたモノを感じながらも、高速の電気に語りかけた。
「おい、ワシを人間が怖がるもんがわかる“ほぉむぺぃじ”に連れて行け」
すると電気の流れの速度が一気に上がった。
「お、おいおい、おいおいおいおい! なんか言えよ、なんだよ近頃の電気は愛想がないなぁ!いたいいたい、いたいっちゅうの!」
雷神の息子はそのまま一気に流されていく。
そして気付くと真っ黒な部屋にいた。
「これが“ほぉむぺぃじ”かぁ」
『どうだ、なんか情報あるか?』
外の妖怪達も気になって仕方がないらしい。
「ちょっと待てよ……あ、“創作怖い話”ってのがあるぞ、これでいいのかな」
『おぉ! まさにそれだよ! 人間どもが自分が『怖い』と感じることを物語にしてるわけだろ? それを参考にこれからの“仕事”を検討していこう、雷神の息子、読んでくれ』
そして雷神の息子は、“創作怖い話”、全30話を外の妖怪達に読み聞かせた。
外の妖怪達は無言で雷神の息子の声に耳を傾けた。
物語が進むにつれ、雷神の息子の声が聞き取りづらくなってきた。
声が、震えているのである。
外の妖怪達も一様に震えていた。
30話の物語が終わった頃には誰もが黙り込んでいた。
やがて、ある妖怪が口を開く。
「めっちゃこわいやん」
それに続く様々な声。
「オレ、そんなんムリ、絶対ムリ」
「なんなの、今の人間はそんな怖い経験しないと怖がらないの? 私、無理よ……」
「お、おい、“壺入道”が気絶してるぜ」
「“涙御前”なんて嘔吐してるよ」
そして最後に誰かが呟いた。
「人間……こえぇ……」
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えー!これってひろ兄さんやったんですか??
返信削除一票入れたのになぁ・・・。
そうですよ、僕です。無残に削除されましたけど(笑)
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