イースターの滅亡要因。

過日、ティーヴィーショーで僕の大好きなイースター島を特集していたので、もう食い入るように見たったわいや。
「なんでチミはイースター島なんか好きなの?」と訊かれたら、僕はそいつをドツき回す。つまりドツいた上に回転を加えて、地面、アスファルトに叩き付け、戦慄いたそいつの土手っ腹に腰掛けて「眠たいことをぬかすな、白痴」と言い放って煙草に火をつけ、そいつの双鉾を灰皿にする。とまぁ、こうキメるやろうね。

僕の友達、めっちゃ怖いやつ、めっちゃたくさんおるんやからな。

僕がイースター島が好きな理由は、もちろんイースター島にはモアイ像がおるからで、モアイ像は各種様々、色とりどりな謎を包含していて、ロマン。ロマンであるよ。
昔、響野がロマンはどこだ?って言ってたけど、ロマンはイースター島にあるぜよ。響野って誰やねんって言うてるお前に、じゃあ訊くけど、お前は誰やねん。

モアイ像に関しては、ホント不思議。存在意義がわからん。
あんな、全長3.5米、20豚なんていうデカいものを、なんで造ったのかがはっきりわからへん、わからへん理由は、イースター島出身者がほぼ壊滅・死滅・絶滅してもたから。
島民が残した板きれ『コハウロンゴロンゴ』に書かれている文字を読める人もおれへんようになってもて、もう真相は闇の中なのである。である。

そんなイースター島を特集するっていうので、僕はもうキャッキャキャッキャと盛り上がり尻上がり。クッションをバンバンどつきまわしながら、ナレーションである緒形直人の言葉に「おぉ、おぉ、ほいで?ほいでほいで?」つって、しばらくは機嫌良く応答していたのよ、しばらくは。

しかしやがてどうにも雲行きが怪しくなってきた。

それは、緒形直人がイースター島の島民たちについて、彼ら彼女らがインカ帝国からの移民であるという学説を話し始めた辺りからだった。イースター島にある石壁、石をぎょうさん積み重ねて造った壁というのが、これ非常に精緻精細に誂えられており、継ぎ目には剃刀の刃一枚も通せないという。これは、当時の文化レベルではちょっと無理なんちゃうかなぁ、なんぼなんでも…と学者陣、皆首をそろえてこれを傾げていたのだけど、その当時、唯一そんな仰天な石壁を造れる技術を持っていた国があって、それがインカ帝国だから、だからイースター島の島民はインカ帝国からの移民なのだと言う。蓋し正論に思える。

ただ、よくよく聞いてみると、イースター島とインカ帝国は直線距離で7,000キロ米も離れておるとのことで、緒形直人によれば、人々は筏で7,000キロ米を渡ってきたという。


うそつけ。


なんでや、なんで石壁をビタッと気持ちよく積み上げられるほどの文化レベルを持った人間が、7,000キロ米もの海路を筏漕いでやってこなアカンねん!もっとすげぇ船作ってたんちゃうんか!

僕は叫んだ。そしたら緒形直人が答えた。

「あの人たちの航海テクニックはすげぇから大丈夫」と。

僕はあぼーんと言うて横臥。フローリングの筋を指でなぞりながら「指紋なんぞ、消えてまえ」と垂れ流した。そんな強引な結論付け、あるかぇ。

僕は落魄し、やや大きめに独白。
『世界さん』って番組は、なかなか高尚な内容だと聞いていたけれど、開けてみれば所詮ゴシップの寄せ集めをまことしやかに披瀝しとるだけの低俗番組やないか。なにが『世界さん』じゃ。お前に敬称なぞ不要!『世界』で十分じゃ!」

と毒づいていたところ、脇から妻が『世界遺産』やで、“い”が1個足りんぞえ、うくくく」と言うてこましてきたのでますます憤怒。怒りに任せて「じゃぁかしわぇ!この耳垂れ!」と激叫してしもたため、側頭部を鈍器で激しく殴打されて、僕は死んだ。嘘だよ、死んでないよ。

そんな剣呑険悪な状態で、僕と妻は世界さん…もとい、世界遺産を見続けた。
会話がないのだから、テレビを見るしかない。

相変わらず、緒形直人がしゃべり続けている。このペテン師が。

話はさらに進んでいて、インカ帝国からイースター島に移住した人々の生活に言及していた。

当時のイースター島は、肥沃な土壌に草木が郁郁生生と繁茂し、川はやわらかに流れ、動物たちは藹々と集い歌い、非常に牧歌的な、天国のような島であった。


熱海みたいだった。


それはとてもよかったのだけど、いつの時代でもそうだね、人間ってのは、阿呆な生き物で、悲しいね。
人々はイースター島の心地よさに酔い狂い、調子をこいて、欲望に身を任せ、森林を伐採し、ヒグマがシャケを狩猟する像を7億万体彫ってみたり、どっちの飼いワニがより多くのウサギを食べられるか大会を週2のペースで開いたり、河川を埋め立てて卓球場やピンサロを建設するなど、これらを開放的かつ意欲的に推進し、結果、激烈なる環境破砕をやってしまったのである。


気付けば島は死んでいた。


決して広くないイースター島は呆気なく、完全に死んでいた。
とても悲しい話である。

それでも阿呆なイースター島民は、「しょーもな、イースター島。“ショーモナイースター”やな。もういらんわ。飽きたわ。筏組んで、さっさとインカ帰ろけ」つって身支度を整えていて、そこではたと気付いたのである。


帰りの筏を造る森林が、もう、ない。


こうしてイースター島民は島から出られなくなってしまった。
何度植林を施しても、一向に木が育たなかったのは、これ天罰であろう。


緒形直人の語り口に耳を傾けるうち、僕のハート・オブ・マイ・オウンは怒りと悲しみという2色に塗られてしまった。泣いた。すごく泣いた。嘘、泣かなかった。

そこから島民たちは凋落の一途をたどる。民族同士がドツき合い、殺し合い、食物を奪い合い、土地を奪い合い、命を奪い合った。島民たちの絶対数はみるみる減少して行き、いよいよ滅亡が眼前に迫っていた彼ら彼女らは『鳥人崇拝』を行っていた、と、緒形直人は言う。

緒方:「滅び行く島の中で、船を造るための木材をも失ってしまった彼らは、海の上を自由に飛び回る海鳥たちの姿に、『島から出る』という願いを託しました。そこで生まれたのが『鳥人崇拝』です。人々は、鳥の頭に人間の体を持つ神を崇め、いつの日か島から出られる日を夢見ていたのです」


そういって、その『鳥人』とやらが画面に映し出されるのを見て、刹那。

先刻まで啀み合いドツき合い殺し合っていた僕と妻が、全く同じタイミングと全く同じスピードで一字一句同じツッコミを、緒形直人にぶちかましていた。

「頭と体、逆やないか」、と。

『鳥人』
添付画像をご覧戴ければ一目瞭然だけども、もはや島から出る術を失った人々が、大空に、はかない望みを込めて作り上げた空想の神ってことでそれは全然いいんやけど、それやったらオラァ、おどれゴラァ、人間の頭で鳥の体にせぇへんかったら空飛ばれへんやろがいっ!なんじゃいなんじゃい!これは!こんなもん、ただ頭のおかしいおっさんやないか!んなことしとるからお前ら滅びるんちゃうんか。


ちゃんとせぇ!


僕らは口々に叫んだ。

その後、夕景。

横一列に並んだ複数のモアイ像を背景に、1体のモアイ像が右向きに横臥している映像が画面に映し出された。「SONY」とロゴが出ている。

その顔はとても間抜けに見えた。



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